原作『オデュッセイア』を読んでみたい人へ|映画の予習復習で挫折しない読み方とおすすめ本まとめ

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映画『オデュッセイア』の予習・復習におすすめの読み方まとめ。

2026年最大の話題作といえる映画『オデュッセイア』。

その原作小説の名前は知っているものの、実はちゃんと読んだことがないという方はかなり多いのではないでしょうか。高校世界史でホメロス『イリアス』『オデュッセイア』と呪文のように覚えさせられる名著ですが、内容をほとんど知らないという方は結構いらっしゃると思います。

『オデュッセイア』の映画が公開されるということでこの原作も話題になっていますが、世界最古の物語のひとつで後世の文学作品に多大な影響を与えている、文学史において最重要といってもいい作品と紹介されることが多いです。

そのため、一般常識として知っておくべきなのでは?と思っている人、これを機に『オデュッセイア』という小説を勉強したいけど、いきなり原典を読むのは難しそうだなと感じている人は多いかと思います。

この記事ではそんな方向けに『オデュッセイア』を現在勉強中で読み進めている私がおすすめの本等をまとめました。

映画を観る前の予習としても、観たあとに「原作をイチから読んでみたい」という人向けに、どの本から読み進めれば『オデュッセイア』という物語を理解できるようになるか、現在読みすすめている私が解説します。

なお、この記事では冒険の詳細な中身には踏み込みません。物語の大きな流れと登場人物だけを押さえる構成なので、ネタバレを気にせず読んでいただけます。

オデュッセイアとは

『オデュッセイア』を一言でまとめると、トロイア戦争の英雄オデュッセウスが、10年もの歳月をかけて故郷イタケーへ帰り着くまでの冒険物語です。戦争が終わったのに、なぜ10年もかかったのか。オデュッセウスの大冒険を描いた作品です。

ちなみに『イリアス』がトロイア戦争そのものを描いた物語であるのに対し、『オデュッセイア』は戦争が終わったあとの帰還を描いた物語です。この違いを知っておくと、2つの作品の位置関係が整理しやすくなります。

おおまかなあらすじはこんな感じです。

トロイア戦争に勝利したオデュッセウスは、故郷イタケーを目指して船を出します。しかし神々の怒りを買ったことで、その帰路は困難を極め、10年もの歳月がかかってしまいます。

道中では一つ目の巨人ポリュペモス、歌声で船人を惑わすセイレーンなど、数々の怪物や試練が登場します(それぞれどんな冒険が繰り広げられるのかは、ぜひ本編で確認してみてください)。

主要登場人物

オデュッセウス — 主人公。トロイア戦争の英雄。故郷イタケーになかなか戻れない。
ペネロペイア — オデュッセウスの妻。夫の不在中多くの求婚者たちに迫られるがかわし続ける貞淑な妻。
テレマコス — オデュッセウスの息子。父の不在で成長を迫られる若者。
アテナ — オデュッセウスを助ける女神。物語全体を通して彼を導く役割。

主要人物を最低限まとめるとこのようになりますがもっと多いです。

この他にも数々の神々や怪物、求婚者たち、オデュッセウスの部下など、非常に多くの人物が登場します。この登場人物の多さこそが、『オデュッセイア』を原典からいきなり読み始めると挫折しやすい最大の理由のひとつと言えると思います。

『オデュッセイア』の読み方ガイド

いきなり原典から読み始めるのはかなりハードルが高いです。そんなことは言わずもがなだと思いますが、岩波文庫から出ている世界最古の物語なんてものは、いきなり読んでも本をめちゃくちゃ読んできた人でない限り挫折するに決まっています。

そこでおすすめしたいのが、まずバーバラ・レオニ・ピカードによる再話版『ホメーロスのオデュッセイア物語』(岩波少年文庫、上下巻)を読んでから、原典(岩波文庫)に進むという方法です。

岩波少年文庫版とは

岩波少年文庫から出ているバージョンを書いたピカードはイギリスの児童文学作家で、独学でギリシャ語を学び、数々の神話や伝説を再話作品として手がけてきた人物です。そんな彼が『オデュッセイア』を子供でも読めるような状態で再話した本がこの『ホメーロスのオデュッセイア物語』です。

小学生や中学生向けに書かれている本なので物語として整理されており非常に読みやすく、時系列のシャッフルもありません。原典で数多く登場する人物や神々の名前も、ここでは最小限に絞られているので、まずはこの一冊で話の骨格をしっかり頭に入れることができます。

先にストーリーの流れを掴んでおけば、原典を読むときに安心感を持って読み進められるので、挫折しにくくなるはずです。

ただし、このピカード版を読んだあとに原典を読むと、話が非常に端折られているというか、原典のほうが内容が明らかに濃いということがわかります。ピカード版はいわばダイジェストです。とはいえ、面白いところはちゃんと面白く読めるように作られています。

オデュッセイアの挫折しない読み進め方

当初私はピカード版を読むだけで予習は十分だと思っていました。これさえ読めば『オデュッセイア』の基礎的なことはだいたいわかるだろう。これを読みさえすれば映画をちゃんと理解できそうだ。そう思い手に取りました。

読み進めていくと、これが結構面白い。そりゃそうです。はるか昔から語り継がれ、出版され続けている本なのですから。

セイレーンなどの聞いたことのある話から、全く知らない話まで、『オデュッセイア』の物語の面白さにどっぷり浸かりました。岩波少年文庫なので子供でも読めるようなレベルではありますが、かなり骨のある内容なので、普段あまり本を読まない、もしくは1ページの文字数が少ないビジネス書ばかり読んでいるという人にとっては難しい可能性もあります。

原典ほどではないにせよ、登場人物の名前に馴染みがなく混乱することはあるかもしれません。特に私のように映画をまだ観ていない状態で予習としてこの本を読んでいる場合は、なおさら苦戦しそうです。

そんなときは、映画の公式サイトに載っている登場人物の相関図を見るのがおすすめです。「この役者がこの役をやっているのか」とビジュアルと結びつけながら読み進められるので、私のように映画を観る前に原作から挑んでいる人は、ぜひ公式サイトの相関図で人物を整理しながら読んでみてください。

ピカード版は時系列がシャッフルされておらず、オデュッセウスの冒険パートを一気に読み進められる構成になっています。まだ後半(オデュッセイアがテレマコスと会う場面)は読めていませんが(※執筆時。数日後読み終わりました)、ピカード版のあとがきに書かれていたストーリーの展開を見た限り、冒険パートに比べるとかなり地味な印象を受けます。

『オデュッセイア入門』(後述)にも、原典が時系列をシャッフルしているのは読者を飽きさせないための工夫だというようなことを書かれていたのを思い出しました。ピカード版で時系列通りに読んでみると、たしかにこの意図がよくわかる気がします。

そう思いつつも原典も読み進めることにしました。

もうなんとなくストーリーわかるし、と思いつつもページを開くとびっくり。原典は全24章からなる物語ですが、1章はまさにピカード版で読んでいたのと同じ、テレマコスが求婚者たちに苛立っている場面から始まります。

ピカード版を読んでいた時点では、「この程度のストーリーで時系列をシャッフルしているだけなら、原典はそこまで難しくなさそうだ」と思っていました。しかし実際に開いてみると、ピカード版で予習をしていなければ確実に太刀打ちできなかっただろうと痛感しました。

というのも、知らなかった登場人物がピカード版の数倍出てきます。端的に言えばピカード版のモブに過ぎなかった人物にも名前があり人生があります。また、物語の概要を知らない人にはまず意味がわからないであろう固有名詞、たとえば「エエリオス・ヒュペリオンの牛」といった言葉が早くも1ページ目から登場します。

ピカード版を読めば後々この牛がきっかけでオデュッセウスたちがどういうトラブル(どころではない)に巻き込まれるか知っていますが、何も知らない状態でこんなワードがいきなりバンバン出てきたら混乱するでしょう。

だからこそ、まずはピカード版で物語の骨格を頭に入れてから原典に挑む、という順番を強くおすすめします。

原典を読んでいて混乱してしまったら、その場面に該当するピカード版のページを読み返す。そうすればクオリティの高いダイジェスト版を確認したうえで、膨大な情報量の原典の内容にも太刀打ちできるはずです。

ピカード版はあくまでダイジェスト版、いわば子ども向けに要約されたような本です。なので『オデュッセイア』という物語をしっかり理解したいのであれば、岩波文庫版の原典にも挑戦することを強くおすすめします。

ピカード版は冒険小説として単体でも十分楽しめる一冊ですし、原典を読むうえでも間違いなく助けになります。ピカード版だけでも割と骨のある読書はできるため、「ピカード版だけ読めば話の本筋は理解できるから、それで十分」と当初は思っていたのですが、せっかくの機会なので原典まで読んでしまったほうがいいと今は思っています。世界最古かつ最重要文学と言い切ってもいい作品は、読んでおいて損はありません。

『オデュッセイア』を理解する手助けになりそうな入門書三冊

ピカード版と原典を読めば『オデュッセイア』という物語を理解はできるかと思いますが、それ以外の本を組み合わせるとより理解が深まるかと思います。

『オデュッセイア』を読み終えたあとはもちろん、原典と同時進行、もしくは原典に進む前に読んでおくとより楽しめる本をまとめます。

『オデュッセイア』入門(河出新書、松村一男著/沖田瑞穂補章)

 

2026年7月28日に河出書房新社から刊行された新書で、完全にノーランの新作の公開前を意識して書かれた本ですが、内容はかなりしっかりとしています。

著者の松村一男氏は比較神話学の専門家で、補章を神話学者の沖田瑞穂氏が担当しています。

巻頭にはオデュッセウスの航路地図や登場人物一覧が収録されているほか、あらすじの解説にとどまらず、24巻からなる物語がなぜ時間軸をずらして語られているのかという構成上の仕掛けにまで踏み込んで解説されているのが特徴です。

私は現在読んでいる途中で時系列のところまで読みましたが、主要登場人物がまとめられているほか、時系列をどのように変えているのかの解説に移る前に時系列順の要約も載っていてわかりやすいです。

ただあくまで要約であり短いためピカード版のように物語として楽しめる書き方ではありません。そのためピカード版と岩波文庫版の、ちょうど中間くらいのタイミングで読むのがおすすめです。人物紹介のページをピカード版を読んだあとに読むと主要登場人物こんなに多いんだと思うはずです。

まずピカード版で物語として楽しんでから、この本で情報を整理し、原典に進む、という流れが良さそうです。

またこの本の面白いところは、補章を担当する沖田瑞穂氏(『ラーマーヤナ』の翻訳・監修も務めた神話研究者)によるパートで、インド神話との共通点はもちろん、日本のゴリゴリのライトノベル『ダンまち』への影響まで語られている点です。目次を見てびっくりしました。読み進めるのが楽しみです。

原典に進む前の橋渡しとしても、読んだあとの深掘りとしても、両方楽しめる一冊だと思います。

『ホメロス物語』(岩波ジュニア新書、森進一著)

岩波ジュニア新書の一冊で、西洋古代哲学の専門家、森進一氏による解説本です。

『イリアス』パートと『オデュッセイア』パートの二部構成になっており、オデュッセイアパートは「アルキノオスの邸にて」「オデュッセウスの漂流談」「オデュッセウスの帰国」「夫婦の再会」という4章立てで整理されています。

岩波文庫の原典の言葉を、子どもでも理解できるように平易な表現へと書き直しつつ、この作品の面白さを解説した一冊です。まだ私はしっかり読み込めていないのですが、『イカロス』と『オデュッセイア』の両作品に関心がある人向けの本で、子ども向けに書かれているため、ピカード版を読み通せるレベルの人なら読みやすいと思います。

ピカード版や原典と同じ岩波から出ている、いわば正統派の子ども向けの副読本という位置づけです。

『ホメロスの世界』(藤縄謙三著)

元々は1965年刊行の古い解説書で、半世紀以上にわたって読み継がれてきた定番の一冊です。

著者の藤縄謙三氏は京都大学文学部史学科卒、同大学名誉教授を務めた古代ギリシア史の専門家。『イリアス』『オデュッセイア』それぞれの読みどころを解説されているのが特徴です。

講談社学術文庫というと、専門的で難しい本が多いイメージを持つ人は多いかもしれません。加えて古代ギリシア史の重鎮によって書かれた60年以上前のホメロスに関する本ということで、かなり難しい印象を受けます。

ただ実際に読んでみると、どちらかというと中公新書などで出版されているなかでも比較的わかりやすい入門書を読んでいるような感覚に近い一冊でした。まだ全ては読めていないですが入門書を意識してわかりやすく書かれています。

『ホメロス物語』が子ども向けの副読本であるのに対して、こちらは完全に大人向けに書かれた原典の副読本という位置づけです。ただしこっちのほうも『ホメロス物語』と同じくらい読みやすい印象を受けました。

追記|すぐ読める漫画版

2026年9月12日追記

この記事を書いたあとピカード版を読み終え、残すは『オデュッセイア』、この機会に読み終えれなければ非常にもったいないというフェーズにまで入っているのですが、藤子・F・不二雄の『ユリシーズ』(『藤子・F・不二雄大全集』収録)という漫画も読んでみました。

トキワ荘時代、学年誌の別冊付録として描かれた初期作品で、ホメロス原作のオデュッセウスの冒険を、子ども向けの短い漫画としてコンパクトに描いています。ページ数が少なく、漫画なのでさらっと読めるボリューム感なので、「いきなりピカード版も長くて気が引ける」という人は、まずこちらから手に取ってみるのもおすすめです。

映画の予習によさそうです。オデュッセイアとテレマコスが兄弟になっていたりなど改変されているところは結構ありますが。ピカード版を読みたいと思っている人がざっと概要を理解するための予習としても使えそうです。

ネクストステップ:『オデュッセイア』の次に挑戦したい古典文学

『オデュッセイア』はトロイア戦争が終わったところから始まる物語ですが、トロイア戦争について描いた世界の文学史における重要作品は他にもいくつかあります。その中でも『オデュッセイア』を読んだあとに読むと良さそうな2つの古典文学を紹介します。

『イーリアス』(ピカード版:『ホメーロスのイーリアス物語』岩波少年文庫、原典:岩波文庫)

『オデュッセイア』の前日譚にあたる、トロイア戦争そのものを描いた作品です。こちらもピカード版がでているので読む順番は同じようにピカード版から入るのがいいと思います。

原典(岩波文庫・松平千秋訳)は全24巻の長編叙事詩で、10年に及んだトロイア攻囲戦のうち、最後の50日間を主題としています。『オデュッセイア』は全24巻・41日間の出来事が描かれているので、日数だけを見るとイーリアスの方がやや長い期間を扱っていることになります。

『オデュッセイア』を先に読んでいれば、トロイア戦争がどう終わり、なぜオデュッセウスが10年もの漂流を強いられたのかという背景がすでに入っているはずなので、こちらもすんなり読み進めやすいと思います。

この本を読む際には先述の3冊、特に『イリアス』に関してもかなりページが割かれている『ホメロス物語』や『ホメロスの世界』は副読本として大いに役立つと思います。

『アガメムノーン』(岩波文庫、アイスキュロス作、久保正彰訳)

ピカード版及び原典を読んだあと高校で世界史を履修していた・している人の誰もが気になるのがアガメムノンという登場人物についてだと思います。

アガメムノンというワードは高校世界史の教科書にでてきます。ソフォクレス、エウリピデスと並ぶギリシア三大悲劇詩人の一人として世界史に登場する、アイスキュロスの代表作の一つです。

この『アガメムノーン』は、『オデュッセイア』作中でオデュッセイアと対をなす、すなわち故郷及び家への帰還に失敗する人物としてたびたび言及されるアガメムノンの物語です。悲劇三部作『オレステイア』の第一部にあたり、トロイア戦争から凱旋したアガメムノンが、妻クリュタイムネストラとその共犯者アイギストスの手によって暗殺されるまでを描いています。

このエピソード自体は、原典『オデュッセイア』に出てきていて、ピカード版でも簡単に触れられます。

『アガメムノーン』は、その部分をまるごと一つの作品として深く掘り下げたものだと考えると分かりやすいと思います。

オデュッセウスが苦難の末に故郷への帰還を果たしたのに対し、アガメムノンは帰還した途端に命を落とす、という対照的な結末を辿るので、2人の帰還兵を対比しながら読むと面白そうです。

ただしホメロスに2つの物語に比べ、副読本的なものは少なそうなので難易度は高そうです。その他にもトロイア戦争をもとにした古典文学の重要作品は数多く存在します。オデュッセイアを入口に、いろいろなことを学べそうです。

まとめ

『オデュッセイア』は世界最古の物語のひとつでかなり難解にかかれているので、いきなり原典に挑むと挫折しやすい作品です。

だからこそ、まずはピカード版で物語の骨格を楽しみ、そのうえで原典に進む、という順番がおすすめです。ピカード版はただの要約以上の面白さの本で、これだけでも全然楽しめるのですが、原典を読むとかなり端折られていることがわかります。

途中で迷ったら入門書3冊を頼りにしつつ、読み終えたら『イーリアス』や『アガメムノーン』にも手を伸ばしてみると、『オデュッセイア』という一つの物語だけでは見えてこなかった、トロイア戦争を巡る壮大な物語群の広がりを感じられるはずです。

この記事が、映画を観る前の予習にも、観たあとの復習にも、そして『オデュッセイア』という世界的名著への入り口として、少しでも役立てば嬉しいです。

 

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